「濱野さんー、聞こえますか?
ゆっくり吸ってー、吐いて。
そう、その調子よ」



助産師さんの言葉に麻衣は眉根を寄せて本当に辛そうな顔をして懸命に呼吸を繰り返す。


オレは……


その景色を目の前にオロオロ慌てていた。


助産師さんからもしっかりしてくださいって麻衣より頼りないことを怒られたし……。



女の人は……やっぱり強い。


オレは……きっと耐えられない。



陣痛とやらが始まり、分娩室に運ばれ付き添った。


命はこうして痛みを伴って、続いていく。




「もう少しよー、力んじゃだめ!
力抜きながら、深呼吸してー」


「頑張れ……麻衣……!」




それからも格闘すること数時間くらい……





「濱野さん!
産まれましたよ、元気な男の子です」




助産師さんの腕には……


麻衣の授かった新しい命……


産まれた、産まれたんだ。


その変わらない事実にただただ涙した。




「抱いてみますか?」


「ええっ!?
あ、はははい……!」




タオルにくるまれた“凌太”が腕から腕へ。


少しだけ重みがあって、目はクリクリしていて麻衣に似たようだ。

良かった……。

目はそんなに自信ないんだよなぁ。


鼻と唇はオレ似かな?


なぁ、麻衣?



そう……問い掛けようとした時、分娩室は緊迫した空気にガラリ変わる。




「濱野さん!!
先生、濱野さんの心拍数が落ちてます!」


「やはり……無理があったか……。
処置を始めるぞ!」


「えっ……」


「濱野さん、少し外でお待ちいただけますか」




凌太を助産師さんへ渡してオレは何がなんだから分からずに外へ出された。



“使用中”



その点灯したランプをじっと見つめ……


事情は分からないがひたすらに麻衣の無事を祈って……。





「濱野さんのご主人でいらっしゃいますか」


「あ……はい」


「当医院長の長谷部です。
大変申し上げにくいのですが……
つい先ほど……奥様は息を引き取られました」


「そんな……っ!!
麻衣が……どうして!!」


「奥様からお聞きしていませんでしたか……?」


「……なにも……何も聞いていません……」






そしてオレは……麻衣が亡くなってから……


本当の事情を聞かされた。