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「ただいまっ!
麻衣、久しぶりに写真撮るか!」
「どうしたのー?
帰ってくるなり靴も脱がないでいきなり」
1日の激務を終えて帰るなり麻衣の言葉通り靴も脱がずにそのことばかり。
「とにかく靴を脱いでスーツも。
皺になっちゃうよ」
母のように窘める麻衣には逆らえず、その通りに。
「じゃあ1枚撮るぞー」
「はいはい。
でも急にどうしたの?」
「最近、麻衣といることが当たり前になり過ぎてるなぁって。
高校生の時は会える時間の方が少なくて麻衣と会うのが貴重な時間だった」
「確かに……そうだね」
「でも今……そんな貴重な時間を当たり前に感じてる自分に気付いて。
もっと有り難いって思わなきゃいけないって」
だから……今この瞬間の麻衣を写真に収めたい。
「あたしも……翔悟がいてくれることが当たり前になってきそうだったけど……
本当はそんなことないんだよね。
翔悟、いつも本当にありがとう」
その言葉は……オレの方こそ。
麻衣がいてくれるから。
オレはここに立っていられる。
「じゃあ今日はあたしがシャッター押してあげる」
「え、大丈夫なのか?」
「ははっ。
シャッターくらい押せるよっ?」
“はい、チーズ”
麻衣の掛け声と共にカシャッと今しかない時間を切り取った写真が……
最後になってしまうことなど……
知らないまま……。
「そう言えば今日の検診どうだった?」
「え……っ?
あっ、えっとね……この調子だとそろそろ産まれるかもって。
凌太もね……元気そうだって」
「そうかー。
いよいよだなっ!」
「うん。
元気に産まれてきてくれたらそれだけで……本当に充分だよ」
こうしてオレ自身も、麻衣も。
親から産まれてきたんだ。
すごく愛されていたんだな。
我が子の愛しさというものを目の当たりにしてオレは何でも出来そうな気持ちでいた。
本当は……
何ひとつ麻衣のことを気にかけてやれなかったというのに…────────



