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「おおお!
麻衣、見たか!
今蹴ったなぁー」
「もう、翔悟ってばどれだけはしゃぐのー?」
「だってなぁ!
ちゃんと……生きてるんだなぁって!」
「ふふ。
まぁ、そうだけどね」
“濱野”麻衣のずいぶんとふっくらしてきたお腹に手を当てて我が子の誕生を今か今かと待つ。
妊娠37週。
もういつ産まれてもおかしくない。
そのことが待ち遠しくて仕方無い。
お腹の子供は男の子。
名前はキチンと2人で話して決めた。
“凌太”
困難にぶつかったとしても乗り越えてほしい。
愚直に努力できる人に、そんな意味合いを込めて考えた。
さらに妊娠が発覚してから少しして麻衣は勤めていた会社を辞めて、産婦人科から程近いマンションに引っ越した。
オレの勤めている会社はだいぶ遠くなってしまったけれど麻衣の病院の方が最優先だ。
麻衣のことを思えば何も苦労は無い。
「ほら、早くしないと会社遅れちゃうよ?
ここ最近いつもギリギリなんでしょ?」
「うーん、そうだなぁ……。
今日も早く帰って来るな!
あと本当に病院付き添わなくていいのか?」
今日は大事な大事な検診日だ。
大抵オレもいつだろうと半ば無理矢理にでも着いていくけれど。
今回、麻衣はその申し出を断った。
「大丈夫だよっ。
病院もすぐそこだし、いつも翔悟に着いていてもらって悪いし」
「いやオレはいいんだよ!」
「ありがとう。
でも今日はすぐ終わるから1人でも大丈夫」
そう言って……
元気そうに笑うから……オレはいつものように出社した。
麻衣と結婚して一緒に住むようになって……
傍にいることが当たり前のように感じ始めていた。
そう言えば……
前のように沢山写真を撮ることも無くなってしまった。
同棲する前は会えない時間に麻衣と撮った写真を眺めたくて沢山撮っていた。
今は……
家に帰って、本物の麻衣がいて。
会えない時間の方が少ない。
「……よし!
今日は久しぶりに1枚撮るか~」
満員電車に詰め込まれ、その現実から逃れるようにそんなことを考えて年甲斐もなくワクワクするのであった……



