翌日の朝。
学校に到着して、教室へ向かう階段を昇っていると、降りてくる女子2人組が私の顔を見るなりヒソヒソ小声で囁きあって、妙にじろじろ私を眺めながらすれ違って行った。

…何だろ、今の。

髪型も服装も普段と同じだし、特に他の子達と違っていることもない。

生まれてこのかた、ただ平凡に、目立つことなく地味に生きてきた。
他人から注目されたことなんて、今までなかったし、ましてや、あんな風に上から下までじろじろ眺められたことなんて1度もない。

気のせいかなぁ…??

不思議に思いながら、階段を上がり切って教室の前まで来ると、廊下の人混みの中に瑠璃ちゃんが立っていた。

「瑠璃ちゃ〜ん、おはよぉ〜」

手を振る私の姿を見るなり、瑠璃ちゃんは猛スピードで私の元へやって来て、腕を取って歩き出した。

「歩ちょっとおいで!」
「なになに??どこ行くの??」
「どっか人のいないとこ…!避難するよ!」
「避難??なんで??」

さっぱりわからない。

人混みをすり抜け、階段を上がり、誰もいない理科室の中に入った。

静かに扉を閉める瑠璃ちゃん。

何でわざわざ閉めるんだろう?
不思議に思いながら見ている私に、振り向いた瑠璃ちゃんは深妙な面持ちで尋ねた。

「歩、昨日の放課後、柏木と二人きりで教室にいた?」

「うん。いた。研究のデータ集めようと思って、色々質問してたら長話しちゃった」

「やっぱりそれか…!うちのクラスの女子が、昨日の放課後忘れ物取りに教室に戻ったらしいんだけど、そのときに、あんたと柏木が教室で話してるのを見たらしいんだよね。
柏木が女子と二人きりで、それも楽しそうにお喋りしてたーって朝からその話題で持ちきりになってて、あんた達が付き合ってるんじゃないかって噂になってる…」

「ええぇぇ???なんで??話してただけでなんで付き合ってることになってんの???」
「恋する女子達の思考回路ってそういうもんよ…」
「そんなあぁ〜!!」

さっきの2人組の態度の理由はこれだったんだ。

そういえば、ここへ来る途中も廊下ですれ違った女の子達の何人かが同じような反応をしてた。

あの子達みんな、噂を聞いた柏木ファン…??
まずい状況になってる…!
血の気が引いて真っ青になる。

「幸い、あんた他の子と関わりないから、柏木ファンもノーマークだったみたいで、今は白貝誰ソレ状態だから、実害はないと思う。とにかく、噂してる子達には誤解だって私からも言っておくから!休み時間も歩のとこ行くし、昼休みも放課後もいつもより早く迎えに行ったげる!だからそれまでなんとか生き抜け歩!」

「瑠璃ちゃん…!ありがとぉ〜!」

頼もしい瑠璃ちゃん。
こんなとき、力になってくれてすっごくありがたい…!


その後、教室まで瑠璃ちゃんが送り届けてくれた。
席に着こうとしたとき、柏木と目が合った。
お互い話があるのは表情からわかるけれど、今の状況じゃ話せそうもないから、目を逸らして、何事もなかったように座席についた。