「大ちゃんなんか、もう知らないんだからね!」

「あ~ そうかよ!! 勝手にしろ!!」

普段滅多に大声を出さない咲が、目にいっぱいの涙をためて、怒っている

いつもおちゃらけている大吾が、こんな風に感情をむき出しにするなんて珍しい・・

「ちょっと・・どうしたの?」

「さぁ・・・」

教室は、静まり返り、コソコソと聞こえる声

今日は、大吾と咲以外は、仕事で誰も登校しておらず、席順など無視して、大吾は朝から咲の隣の席を陣取り、机をくっつけ授業中もふたりでコソコソとイチャついていたのを、クラスメイトは見てみぬフリをしていたのだが、昼休みも終盤になった今、さっきまでのバカップルは、かなり険悪な空気に包まれていた

「も~ ムカツク!!」

と咲はガタンと椅子を倒しながら、教室を出て行った

大吾は、しばらく咲の出て行った方を見ていたが、そのまま視線を戻し、腕を組み、ブスッと椅子に座ったままだ

「大吾くん! どうしたの?」

と一人のクラスメイトが近寄って、さっきまで咲が座っていた椅子に腰掛けた

「・・・・・・」


「もしかして、ケンカ? なんで? 大吾くんを怒らしちゃうなんて、咲ちゃんって
何考えているんだろうね~ ムカツクね~」

「・・・・・ごめん あんた誰?」

いくらケンカしていたからって、咲の文句を言われるのはムカツク・・

っていうか・・ この慣れ慣れしい女誰?

彼女は、転校生でもなんでもなく、1年からずっと芸能科に在籍している、雨宮琴乃(あまみや ことの) 
コアなファンを多く持つ、アイドルで、大吾とも歌番組で競演をしているのだが、大吾にとっては、人物ではなく風景として認識されていたのか、全く印象に残っていなかった