暖かい陽射し、それに応えるかのように咲き誇る桜。
季節は巡り、新年度を迎えていた。

春は出会いの季節。
それ故に、心躍らせながら通学していく生徒がほとんど……だが、この学校には一人例外がいた。

その人物とは、『前世の記憶を持つ男』、新三年生の田中博紀である。

博紀は、歩みを進めては大きなため息を繰り返す。
既にかなりの幸せを逃している気がするが、本人にとってはそんな事は問題ではない。

ただ静かに暮らしたい博紀にとっては、この季節は憂鬱でしかないのだ。