「崇子様……………崇子様…………」

寝言であるのか、それを数回繰り返して、苦しそうなお顔をなさっている。

(崇子様?誰かしら。藤の三位の姫君は、そんな御名ではいらっしゃらない。)

「北の方様。」

その女房は不思議に思い、直接、北の方と父君の元に行く。

「若君様が、夢現に崇子様、と呟いていらっしゃったのです。崇子様、とは、誰なのか、不思議に思いまして参りました。」

北の方は、「さあ」と首を傾げていたが、父君には覚えがあられる。

(葵だ。貴久の想い人は、やはり、葵だったのだ。縁談など、不味いことをしたな………不憫な。葵は何も望んではいけないのか。酷い。)