間違えなく、姫君が仰っているのは、貴久が初めて姫君の曹司に忍び込まれた時のことである。

「君ありと、聞くに心をつくばねの………」

貴久があの日、姫君に贈られた歌。落窪物語にある。

「見ねど恋しき、嘆きをぞする。」

貴久は、その頃を思い出したのか。
それとも、覚えていていらっしゃらないのか。

あれから、三月、四月程経っている。


「あれ?」

貴久は長らくお休みであった。そして、睡眠から覚められて、一番最初に気が付かれたこと。