「お姉様。桜のお姉様。」

「なあに?若草。」

桜、若草、両方の姫君は共に葵の姫君の妹である。
と言っても、二方は姫君の異母妹であり、本邸に住んでいる。

二人とも美しくはあるが、葵の姫君にはたいそう劣り、教養は無く、楽器は筝がやっと弾けるだけ、という有様だった。

「お父様が、女房と話していて、そして、面白い話を聞いたの。」

「まぁ、何のこと?」

「お父様の別邸に藤という女(ひと)が住んでいて、その女が消えてしまった、とかなんとか言っていたわ。赫夜姫みたいねって。」

若草はクスリと笑った。