あと、少し、お二人が生き永らていらっしゃったならば、きっと、こんなにも一方が苦しむことはならなかったのかもしれない。

若君の貴久は、お隠れになった後に昇天なさったと聞く。

貴久は、確かにお亡くなりになった。
だが、姫君は、幸か不幸か、生き返られた。

姫君は血で紅く染った貴久の衣を抱き締め、常にもなく、御落涙された。

姫君は、この頃、貴久をやっと大切に思い始めたばかりである。

貴久は、姫君に確かに一目惚れなさっていた。
姫君は、何故それを異母弟だと御存知ながらも、愛したのか。
それは、姫君御自身が黙秘なさっている。