藤一条の姫君は独り、曹司で気晴らしにと、琵琶を弾かれていた。

(昔、母様が教えて下さった琵琶。お陰で上達したわ。でも、母様は、戻っては来てくれない。お陰で、一介の女房まで成り下がったこと、御存知かしら。)

ふっと溜め息をつかれた、その時、「藤一条様」と、誰かに呼ばれた。

「誰かある?」

不安になられてそう問われると、「失礼します」と誰か、心なしか、覚えのある声で言われた。

貴久であった。

「相変わらず、琵琶の名手であられますね。いや、貴女の右に出る者はこの邸中にいませんよ………いや、この京にもね。」