「藤一条、お前は、何をしていたの。私達が帰って来たと言うのに、まあ、迎えもなしで。」

朝方、桜達は帰って来た。
藤一条の姫君は、またか、と思われていた。

「桜、藤一条は貴女の教育係の様な者で、仕えている女房ではないのだから、そんなことは、言うでない。」

父君が娘御である姫君にお気をつかって、そう仰ったが、それが、姫君の御心に深く突き刺さって、悲しく思われる。

(嗚呼、人の人生なんて、悲しいものだわ。母様からの御文には、『短い間』と書いてあったのに。私を、迎えに来ると………)

竹取物語にもあるのだが、天と人の世の時間の流れの速さは、全く別物なのだ。