それから2週間程した土曜日の朝、尚也が実家に行くと言ってスーツを着て出て行った。

「実家にスーツって何?」
と笑うと
「まぁね」
と尚也の私の視線を避けるような態度にあれ?っと思った。

数日後、尚也の部屋のパソコンを借りて研究発表の資料を作っている時にプリンターのインク切れに気が付いて、デスクの引き出しを開けた。
白く大きな封筒が入っていた。

これって…。

嫌な予感は当たるもの。
見るべきじゃないのはわかっていた。

お見合い写真。

こちらを向いて美しく微笑む振袖姿の女性。
一緒に付いていた釣書によると銀行の頭取のお孫さんだという。

ああ、あのスーツ姿で実家に行くと言った意味がわかった。
そうか、お見合いだったのか。


全身から血液が抜けていくようだった。
何もする気になれず、尚也からの連絡で手元に置いていたスマホが鳴るまでただボーッと座り込んでいた。

尚也からのメッセージは『実家で用事ができたから今夜は帰れないかもしれない。夏葉はそのまま部屋にいてもいいし、自分の部屋に帰ってもいいよ』だった。

今尚也が本当に実家にいるのかお見合い相手とデートしているのかはわからない。
予想外の展開に動揺していた。

これから留学して勉強するって男が見合いするって?何なんだろう。
普通は留学から戻って見合いして結婚じゃないのかな。
急いでお見合いする理由があるんだろうか。
美人で銀行の頭取の娘。
何をとっても私は敵わない。


尚也にお見合いの件を聞くことができないまま更に1週間が過ぎていた。
留学まであと1ヶ月と少し。
尚也は荷物の片付けを始めていたし、私も自分の研究発表を控えていてさらに仕事もいつも通りこなしていたからかなり忙しくしていた。

3日振りに尚也の部屋に向かってアパートの通路を歩いて行くと、きれいな身なりの若い女性が尚也の部屋のチャイムを鳴らすところを見てしまった。

え?誰?
とっさに建物の柱の角に隠れた。
尚也がインターホンで応答する声が聞こえる。