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「うわっ、何これ、すごく柔らかい。しかも、お肉自体が甘い。美味しい」

高級フレンチディナーを前に私は大興奮していた。

「そうだね。見た目だけじゃなくて味も最高だ。夏葉が喜んでくれて良かった」

尚也は満足そうに肯いた。






私は尚也に連れられて高原デートをしていた。

昼間に訪れた湖の畔にある美術館にはバブル期に集められたらしいかなり高額な有名絵画がたくさん並んでいた。

ピカソやシャガールだけでなく、ダリやマティスのものも常設展示されている。

私は絵画鑑賞が好きで仕事帰りに絵画展にふらっと寄ることもある。あまり尚也には話したことはなかったと思うけれど、知っていたのか偶然か。


「夏葉は好みがハッキリしててわかりやすい」
尚也がクスリと笑った。

「え?何が?」

「好みの絵は近くから遠くからじっくりと観るのに、好みじゃない絵は例えそれが巨匠と呼ばれている人のかなり高額取引された有名絵画でもサラッとしか観ないよね」

「えっ、そうかな、あれ?そうだった?気にしたことなくて知らなかったよ」

自分では気が付かなかった、そんな事を尚也は感じたんだ。
「ごめん、自分のペースで観て回ってた。尚也も好きなタイミングで観てね」

「いや、俺は絵画を観てる夏葉をじっくり見てるから大丈夫」
私の肩を抱き寄せて頭の上に軽く唇を付けてきた。

一瞬にして顔が熱くなる。
思い出作りの旅行だとはいえ、甘すぎるんじゃない?