そして、何かを話すとその女性は尚也の部屋に入って行ったようだった。
だって、私のいるエレベーターに向かう通路には戻って来なかったから。

あのお見合い写真の女性だ。
今日は洋服だから雰囲気は違うけれど、間違いない。

尚也が女性を自分の部屋に入れた事はかなり衝撃だった。
一気に指先まで冷えて身体が震える。
このまま私が彼の部屋に行ったらどうなるだろう。修羅場になる?破談になる?

そんなバカな事をしてもしょうがない。
どうせ尚也と私は留学までの付き合いなんだから。
冷たく私が追い出されるに決まってる。
例え追い出されなくても自分を貶めるような事をしたら、この先ずっと自分を許せなくなるはず。

私はUターンをして気分転換に買い物をしてから自分の部屋に帰った。
ゆっくりとシャワーを浴びて出てくるとスマホに尚也からメッセージが入っていた。

『今日は来ないの?』

何言ってるんだろう。
あなたの部屋で女性と鉢合わせをしてよかったって言うの?

『行かない』

『どうかしたの?』

どうかした?どうかしているのは尚也の方。
でも、追及する勇気も気力もない。

『風邪気味だからやめておくね。もう寝るから』

一方的にメッセージのやり取りを打ち切って本当にベッドに入った。
眠れる気はしないけど、起きていてもやることがない。
何も考えないでいられるように音楽を聴いてベッドに寝転がっていると、インターホンが鳴った。

画面を確認する。

尚也だ。

尚也は合鍵を持っているし、電灯が付いていて居留守を使うわけにもいかず迷ったけれど諦めて玄関を開けた。

「どうしたの」

「どうしたのって夏菜が心配だから来たんでしょ。大丈夫なの?熱は?咳は?」

私の額や首すじを触って発熱を確認している。
「クチ開けて、のど診るから」

「大丈夫よ、自分で見た。腫れてない」

「胸の音は?」

「咳はないから平気」

「リンパは?お腹は痛くない?」

「尚也、ね、尚也ってば。大丈夫。ダルいだけだから」

私のTシャツをめくって次々と診察を始めそうな勢いに戸惑う。

「夏葉、ご飯食べたの?」

「食欲ない。後でゼリー食べるからいい」

「またか。夏葉はすぐに食欲落ちるから。食べないとよくならないぞ」

「風邪が伝染ると困るから尚也は帰って」

尚也の言葉を遮って私は尚也の背中を軽く押した。

「いや、伝染らないから大丈夫」
尚也は動かない。

「私は寝れば治るから」

「じゃあ、一緒に寝る」
尚也はにっこりと笑った。

「何言ってるのよ」

本当に何を言ってるんだこのオトコは。