夕方、店の扉が開く。ここからほど近いミッションスクールの制服を着た十五になる少女を、表向きは店番のバイトのために雇い入れたのだ。
「こんにちは。今日からバイトの祖父江です」
「あぁ、本当に来たね。保護者からは?」
 くるっとした瞳に、日本人形を思いおこさせるような癖のない黒髪と白い肌を持つ少女へ思わず尋ねた。
「最初に条件クリアしたので、特には」
「なるほど」
「それで、この間聞きそびれたんですけど、制服のままここで店番するんですか?」
 気にするのは、そこか?
「いや、こちらで服を用意する。それに着替えて欲しい。その前に、ここは何の店に見える?」
「え?ファンシーショップですよね?」
 それがどうしたと言わんばかりの顔を少女は向けてきた。そしてファンシーショップに見えると言うのは嘘なのも知っている。
「君は正気で嘘がつけるのかな?」
「嘘と建前と本音は使い分けろと身内に教わっているので」
 くすりと微笑む少女を見て思う。意外にしたたかだと。
「さて、履歴書は見たが、生徒手帳も見せてもらおうか」
「どうぞ」
 住所も名前も一致している。これに嘘はないということか。
「それで、店長。服は?」
「……店長?」
「違うんですか?」
「マスタ、来たの?」
 上から別の声が聞こえてきた。
「マスタ?じゃあ、マスターなんですね」
「違う」
 やり辛い子供だ。ちょうど上から声をかけてきたのがおりて来た。
「マスタ、この人が魔青の新しいマスタ?」
「いや、違う。まだ流動的だ」
 ひそひそと話すのを不思議そうに見ていた。
「魔青の名前は魔青。よろしく」
「まおさん?あたしは祖父江 菜月です」
「魔青でいいよぉ?つ……」
 慌てて口を塞いだ。
「この店の由来にもなっているのだけどね、この子は魔青。魔に青いと書く。そして私は聖。名前で呼んでくれて構わない」
「セインさん?」
「そう。聖と書いてセインと読む。あまり店長とか言われるのはなれていない。それくらいなら名前で呼んでくれて結構」
「で、魔青さんはどうして聖さんをマスターって呼ぶんですか?」
「あぁ。別の店もやっていてね。それでだよ。私も君を名前で呼ぶ。それでいいかな?」
「構いませんけど……慣れれるかなぁ」
「は?」
 何に慣れるというのか。
「あ、何でもありません。とりあえず一ヶ月よろしくお願いします」
「魔青は呼び捨てでいいよぉ。菜月ちゃん」
「あはは。よろしく」
 いつの間にやら仲良くなっていた。

 服を着せたら何ともいえない顔をしていた。
「これって、俗に言う『ゴスロリ』ですよね?」
「そうだよ。魔青もそれを着ているだろう?」
「仕方ないのかなぁ……兄さん見たらどういう反応するんだろ」
「兄さん?」
「あ、はい。一緒に住んでる兄です。歳が結構離れてるんですけど」
 ためらいもなく菜月が言う。
「あぁ、それからここは情報を集めるものも来る。その場合は私に言いなさいい。分かったね?」
「はい。そのあたりは魔青ちゃんに聞きます」
「魔青に『ちゃん』も『さん』もつけない。その理由はあとで説明する。分かったね?」
「はい」
 これからが本番だ。