終わって帰るなり、陽光が口を開く。
「何言ったんっすか?菜月ちゃんに」
「別に、ちょっと確認を取っただけだ」
 それからしばらく菜月は来なくなった。


 今日も菜月は来ない。核心をついたせいだ。ということは憶測はあっている。
「せっかくあの子に教えてやろうと思ったのに残念だ」
 緋炎たちも今日は来ない。
 ちりりん、店のドアが開く音がした。
「おや、今日は休み……いや、ようこそ魔術屋へ」
 菜月かと思ったが、来た相手は違った。
「何の用かな?勤務中だろう?」
「単刀直入に言う。何のつもりで妹を巻き込んだ?」
「妹?何のことかな?私のところに来るお前と同じ姓の者は男だよ」
「腹の探りあいは止めましょう。妹は今月いっぱいでここを辞めてもらう」
 その言葉にくすりと笑う。
「お前が保護者というわけだ。そして歳の離れた兄、そういうことか」
「そういう事です」
 二階へ促し、そのまま椅子を勧める。
「いえ、バイトを辞めさせる確約をいただければ俺は帰りますので」
 二階にあがったものの長居するつもりはない、はっきりと言い切ってくる。
「保護者から言われてしまえば私は承諾せざるを得ない、それだけだよ。その前に、私からも頼みがあるのだが」
「何でしょう?」
「あの子に会わせてやれないか?」
 その言葉に男が笑う。
「不可思議な事を言う」
「承諾するか否か、きちんとお前の妹の口からあの子に……」
「その必要はありませんよ」
 そしてきびすを返して出て行く。
「まったく、あの男はやりにくい」