人事が発表されて初めて全員が揃った。
「は?」
 役員名簿を見て思わず声をあげてしまった。樹杏の役職があまりにも低すぎる。
「昨日修正が入りまして、樹杏殿のご希望によりとの事です」
 苦笑してもう一人の側近、八陽 元則が言う。
「希望?」
「はい。妹君のお身体が弱いので、少しでも責任の少ない役職へと希望なさったそうです」
 青天の霹靂だった。この役職ではそうそう己と話が出来ないではないか。
「今日は挨拶の日ですのでお顔合わせは出来ますよ」
「してやられたな」
 その言葉に疾風一人が苦笑していた。
「樹杏の調査票は出たのか?」
 それから数日後疾風に尋ねた。
「それがまだでして、しかも今日は家族用事で休んでいますね」
「琴織は明日だろ?」
 四条院八家の一、西宮で経営している幼稚舎から大学部まで付属で揃っている学校の名前を思わずあげた。もちろん、紅蓮も琴織の大学部に在籍中である。
「えぇ。ですのでおかしいなと思ってはいるんですが」
 そして含み笑いをしてきた。
「おませさんだけじゃなかったんですね。咲枝様から聞きました。次期当主になるにあたり、一つ条件を出されたとか」
「うるさい」
 いつかはばれると思っていたが、ここでからかわれると思わなかった。とっさに別の書類に目を通して逃げにはいる。
「保護者の樹杏殿よりそれに関して交換条件が」
 書類から顔をあげて思わず疾風の顔を見た。
「ちい姫様がそのお約束を覚えておいでで、なおかつちい姫様が承諾した場合に限るそうです」
 忘れているという選択肢は紅蓮の中に全くなかった。先手を打たれたのだ。
「疾風、これは他のやつらに言うなよ。ばれたらそれこそ……」
 悪友どもにばれたらおちょくられるどころの話ではないだろう。
「かしこまりました」
 含み笑いをしているあたり、油断が出来ない。