翌日、陽光と菜月に顔を見て驚かれた。
「どうしたんですか?その顔」
「殴られた」
「えぇぇぇぇ!?」
「ってかいお前、昨日母親の墓参り行っただけで何で殴られるわけ?」
「俺よりも連れの方が重傷。両腕やられた」
「妖魔に、ですか?」
「いや、妖魔よりも性質の悪いのに」
 それを聞いて聖が笑っている。
「母親の墓前でとある人物と会ったらしくてね、なに、向こうも手加減したんだろうが負けただけだよ」
「お前の親父さんとか?」
「んなわきゃない。もしかしたらと思って俺も聞いたが、速攻否定された」
 否定されて良かったが。
「馬鹿な賭けに乗るからだよ」
「馬鹿な賭け?」
「そう、己に近づけたらとある人物にあわせてやると言われたそうだ。その時点で負けは決定だよ」
「その、理由」
 すぐさま陽光が尋ねている。
「喧嘩を吹っかけられて、すでに冷静さを欠いた状態でやって勝てる相手ではない。それに向こうにはメリットもデメリットもない。最悪、相手が望まないと言って会わせないだけだと思わないか?」
「あぁ、あの女の子の身内にこうされたわけですね」
 菜月がぎょっとした顔をしていた。
「仕方ないだろうが。会わなきゃ……ってお前たちに説明してやるいわれはない!!」
「会わなきゃって事は、何が何でも会いたいわけだな」
「顔、大丈夫ですか?」
 顔を心配したのは菜月だけだった。
「気にしてやることじゃないよ。たまにあるから」
 呆れたように陽光が言う。
「まぁ、あの二人のコンビネーションに勝てるのは元々そういない。それにアドバイスももらっただろう?」
「アドバイス?」
「そう、チカラの使い方に言及されたそうじゃないか。あれがするのは珍しいよ」
 そしてまた動くように言う。
「え?緋炎さんこの状態で動くんですか?」
「昨日休んだ。脳震盪しか起こしていないし、脳波に異常もない」
 あっさりと聖が言う。
 どうせだ、菜月に揺さぶりをかけろと言いたいのだろう。
「分かった。行くぞ」
「え?」
 すぐに呪符をもらい、動く。

「それから、索敵はお前がしろと」
「え?」
「陽光が遠方で支援するより、お前の方が精密だとさ」
「……分かりました」
 何かにすぐ集中していた。
「菜月?」
「来ます」
 まだ存在すらないのに気がついている。
「緋炎さん!準備してください」
「分かった」
 あまりにも早い反応だ。
「くそっ」
 昨日の言葉が蘇る。
――こんな男に惚れるとでも?――
 事実だ。気がつかない。チカラ任せの呪術。女心が分からない。
「緋炎さん!!」
 呼ばれてはっとした。
「どうしたんですか!?ぼおっとして」
――ぐれちゃま?――
 一瞬幼子と菜月が被った。
「いや、なんでもない」
「じゃあ、しっかりしてください!囲まれてるんです」
「あ……あぁ」
 ぱしん、軽い平手が飛んできた。
「菜月?」
「昨日、何があったかなんてあたし、知りません。何を言われたのかなんて分かりません。でも、今、それを持ち込まないでください!」
 必死に撃退しながら菜月が言う。
「あたしじゃこの妖魔撃退するのは無理なんです!緋炎さんじゃないと駄目なんです!!」
「悪い」
 その通りだ。
「いくぞ。索敵頼んだ」
「はい」
 チカラ任せでもいい。今はここから抜け出すほうが先決である。
 的確な菜月の敵索、それに合わせて呪を放つ。
「緋炎さん、まだ来ます!」
「うそ……だろ」
 どれだけ呪術を練っても追いつかない。緋炎の息もあがってきた。
「くそっ」
 このままではまずい。せめて、菜月を……そう思って呪符を使おうとしたが、弾き飛ばされた。
「緋炎さん!」
「どうすりゃ……」
 思わず抱き寄せた。あまりにもまた無力すぎる。
「ぐぁ……」
「緋炎さん!!」
「そんな、顔、するな」
 援軍だけ頼む。誰が来るか、そんなものどうでもいい。ばれてもいい。