帰りがけ、思わず笑みをこぼす。
「……無茶苦茶言いやがる」
 チカラは確かに己よりも上だ。ただ、己が狸でチカラの使い方を心得ているだけだ。
「いかがでした?紅蓮様のおチカラのほどは」
「根本的なところは花蓮に似たな。上辺は父親譲りだ」
「仕方ございませんでしょう」
「せめて紫苑にチカラの使い方くらい習っておけ」
 基本に忠実であり、チカラを温存するのは樹杏からみれば結構厄介だったりする。
「紫苑様は温存して使う以外方法がございませんからね。何せ紫苑様も祖父江の者」
「……ちい姫も昔苦労したな」
「今もでございましょう」
 それもあり、どうしても過保護になってしまう。
「噂をすれば、ちい姫様が戻られましたよ」
「早いな」
 いつもは用事がありもっと遅い。
「ただいま」
 またぴったりとくっついてきた。
「おかえり、ちい姫」
 優しく頭を撫でる。
「今日って確かお墓参り行ったんだよね。それなのに、この手、どうしたの?」
「妖魔に囲まれた」
「まさかと思うけど樹杏兄さん、妖魔を素手で殴ったの?」
「そんな事するわけないだろうが。ちょっとそのあとごたごたに巻き込まれた。相手を殴ってきただけだ」
「大丈夫?」
 手の腫れたところを優しく撫でながら妹が尋ねてきた。
「あぁ、また具合悪いのか?」
「ううん。急に休みになったの」
「着替えてきなさい」
「はぁい」
 どうせこの間買った服だ。昔から外出が少なかったせいか、服も樹杏の購入したのをそのまま着る癖がついてしまっている。着替えてきた妹は予想に違わぬ格好だった。
「どこのお嬢様よりもお綺麗なんですけどね……もう少しお洒落にお気を遣われてもいいと思うんですが」
 そろそろ自分で服をセレクトしろと暗に含む。
「だって、よく分かんないんだもん。雑誌読んでも意味不明だし。どれとどれをあわせていいかとか考えるなら、樹杏兄さんに頼んだほうが間違いないし」
「ちい姫様……お年頃のお嬢様の言葉には聞こえませんよ」
 だが、妹は気にした風もない。
「……樹杏兄さん、部屋に戻ってていい?」
 妹の顔色が一瞬にして変わった。
「ちい姫?」
「千代さんのところまで戻る時間無いから」
 逃げるように部屋へ戻った。ちょうどベルが鳴る。
「紫苑か?さすが祖父江同士」
 ベルがなる前に来る人物に気がつけて、あそこまで警戒するとなったら、必然的に名前は絞られる。だが、ここに入れるつもりはない。
「冬太、出かけるぞ」
「は」