電話で緋炎が怒鳴ったのが聞こえてきた。
「おや、緋炎にしては珍しい」
「おそらく菜月ちゃんじゃないんすか。俺が見た限りあといない……何故あの子は気がつく?」
 敵索をしているにもかかわらず、陽光は気がついていない。だが、菜月は気がつく。思わず敵索にはいる。
「……いるね、数体。陽光、――に集中してみるといい」
「馬鹿な……」
 愕然としている。
「普通、こんなん気がつかねぇよ」
「そう、手馴れでないとこんなもの気がつかない。つまり、あの子の実戦経験なしは虚偽だという事だ」
 思わず付け足す。
「緋炎にはこちらで測定不能。菜月を敵索にまわすように言いなさい」
「分かりました」
 いい揺さぶり情報が出来た。
「しばらくは……そうだね。遠方であるため難しかった事にしておくか」
「人でなし」
 何者なのか分からないのなら、切り崩しにかかってやる。
「戻った」
 戻ってきた緋炎の息があがっていた。菜月はすでにぐったりとしている状況だ。
「半端な数じゃなかった。菜月に怪我がないのがせめてもの救いだ」
「嘘、だろ?」
「嘘言ってどうする?こっちからの支援は望めないわ、途中から菜月は怯えだすわ、やっとの事で倒した」
「怯えていた?」
 確かに菜月は震えている。悪夢でも見たかのように。
「これで店番は無理だね。休んだらまた帰りなさい」
 少しの間、揺さぶりのため緋炎をそばに置く。


 揺さぶりをかけろと言われても、これだけ怯えている菜月に酷である。
「緋炎さん……」
「どうした?」
「離れると気がつかないときってあるんですか?」
「俺も初めてだな。最初の頃だと陽光が見落とすから師父が敵索することもあったし」
 うつむいたまま、震えている。
「おそらく、師父は敵索に入っていなかったんだと思う。だからだ」
 祖父江の血は伊達でない。あれに気がつくのだ。
「凄いな」
「え?」
「俺は駄目なんだ。どんだけやっても敵索も適材適所も出来ない」
「向き不向きだと思いますけど」
 やっぱり菜月に気を遣わせている。
「だって、緋炎さんはあたしがあんな状態だったのに、ずっと離れないで全部倒してくれたじゃないですか」
「敵索が上手いからだろ?ただパニック起こされただけじゃ、俺にも限界がある」
 思い出せば、時折怯えていた。何か条件でもあるのか。
「ありがとうございます」
 やっと笑い出した。
「本当はここでバイトしてるのもちょっとやばいんです」
「え?」
「兄は結構過保護なんです。だからバイトしたいって言った時も、土日は駄目とかあまり遅くならないようにとか色々条件ついたんです」
「その条件はクリアしてるだろ?それに過保護じゃなくてお前が身体弱いから……」
「それもあるんですけど、かなり過保護ですよ?仕方ないですけど」
「仕方ない?」
 それには笑うだけだった。
「まだ、気がつきませんか?」
 着替えるので出て行けと。振り回されている気がする。
 気がつくと菜月のことを考えている。

 出てしばらくすると菜月の着替えが終わったらしい。
「緋炎さんって毎回、着替えるからって言わないと出て行かないですよね」
「うるさい。どのタイミングで出てっていいか分かんねぇんだから仕方ないだろうが」
 その言い方にも菜月は笑っている。
「そんなんじゃ約束した子に呆れられますよ?」
 意地悪げに笑う。
「やっかましいわ!!」
 年上をからかって楽しんでいるあたり最悪な女だ。
「菜月、もう大丈夫なようだね」
 だが顔色は冴えない。聖もそれに気がつたらしい、すぐに帰れと。
「それで?揺さぶりは?」
「あの状況でかけれなかった」
「次はかけなさい」
 何としても素性を明かすと。
「分かった」
 確かに菜月の素性は緋炎も知りたかった。