翌日も当たり前のように菜月が来る。しばらくは店番をメインにと話が変わっていく。
「……」
「……」
 何が起きているといいたくなる。華弦と菜月が黙って互いの顔を見つめ合っている。
「何……」
「知らねぇよ。何かを華弦さんが耳元で囁いたら、一気に警戒した。そのあとこうなってる」
「で、答えは?」
「何のことですか?」
「あくまでもそ知らぬふりか。祖父江の血を引いていたら普通に妖魔が話しかけてくる。それに驚いた?ありえない」
「あなたの言う祖父江ではない……」
「ふざけた事を言うな。祖父江の者は同じ祖父江の血を引いたものが分かる。そうでなければ何故お前がそこまで紫苑兄を警戒する?」
 菜月が追い詰められていく。
「今回、言いたいのはそれだけだ。仕事の最中、邪魔をした」
 悔しそうに菜月が唇を噛んでいた。
 そしてそのまま二階へかけあがっていく。
「おい!」
 逃げようとしているのかもしれない。思わず手を掴んだ。
「痛い……」
「悪い」
「別に、着替えてこようと思っただけですから」
 制服を着たままだったのだ。
「あの人の言ってる事は分かりませんから」
 これは嘘だ。それなりに分かるようにはなった。
「菜月……」
 誰もいないのが救いだった。
「もう少し、女心が分かるようになったらどうですか?」
「やかましい」
 少しだけ菜月が笑う。だが、怯えていた。
「大丈夫か?」
「はい」
「……この間言ってた叔父ってのが、さっきの奴が名前出してた人だ」
「そう、ですか」
 それだけ言って菜月は着替えに向かう。
「緋炎。お前ってホント、気が利かない」
「やかましい」
「もう少しそっとしておいてやれよ。あの子は言いたくなったら言うさ。それともお前、年下好み?」
「お前が言うか?」
「いや、俺は年下興味ないし?華弦さんが言うならまだしも」
 それとも血縁的に年下好みなのかとからかってくる。
「それ、華弦と美恵に聞こえたらお前が殴られるだけだぞ?」
「言わねぇよ。美恵ちゃん怒らせると大変だし」
「そういう問題か?」
「そういう問題」
 着替えてきた菜月が不思議そうにこちらを見てきた。さっきまでの怯えがない。
「な?強がりかもしれんが、ああやってるだろ?言いたくなるまで待てよ。お前だって一回意固地になったらとことんだ。それよりも菜月ちゃんのほうがずっとましだぞ?」
「やっかましいわ!!」
 こそこそと陽光が言ったが、思わず怒鳴って拳をあげた。それをみて菜月が笑っていた。
「菜月ちゃん、俺、今からこいつとちょっとでかけてくるからさ、魔青と店番よろしく」
「はい」
 そして二人出て行く。