一ヶ月もの間、素性の知れない者を雇ったのはここ数年ない。
「どうしたものか」
 だが、今回のデータは興味深い。敵索に予想以上の能力を発揮している。そして、何より緋炎に合わせて呪術を練っている。
「試用期間、延ばすとするか」
 面接時、聖の銀色の髪にも赤い瞳にも驚かなかった少女は一体何者なのか。
――ちょっとピントのずれた普通の女子高生としか思えません――
 陽光が言った言葉を思い出す。思い切って学校の校門前で待ってみたらどんな反応を示すのか、興味がわいた。
「それは止めとけ」
 黒龍がとめる。
「お前さん、目立ちすぎるし、止めとけよ。変な噂がたつと悪いし」
「そうか……そういえばあの男の動きは?」
「あぁ……どうも妖魔の増幅に関わっているみたいだ。おそらくちい姫は父親と一緒にいない」
「と言うと?」
「ちい姫が戻ってきたのはあの男の耳にも入った。だが一度も会っていないんだろ。だから妖魔を使ってでも探そうとしている」
「何のために?」
「これは咲枝が言っていた。なぐさみものにするためだろうと」
「あの色魔は自分の娘にまで手をだすつもりか?」
「だろうな。俺も良くわからん。樹杏に聞けないのが結構しんどい」
 黒龍が根をあげた。
「俺、お前さんが言うみたいに樹杏に対して警戒できねぇ。昔のあいつを知ってる。親父のやった事に憤慨しているあいつ……必死に妹守ろうとしてるんじゃないかって思うんだ」
「だが、樹杏は油断ならない男だ。幽閉はわざと望んだし、それに……」
「分かってるさ。お前さんの言いたい事は分かってる」
 当初、現当主のあとは本妻の娘、花蓮と樹杏が結婚し、樹杏がなるものだと思われていた。それが花蓮の妊娠を機に婚約を破棄、慌てて現当主が青葉を養子に迎え入れた。ただ、愛人の子供である青葉では……という声が根強かった。花蓮の産んだ子供が男児であったため、ある程度大きくなったところで次の当主へ正式に任命されたのだ。
「それにあの男は自分が役職についていた痕跡すら綺麗に消し去って幽閉された。恐ろしい男だよ」
「あれ、当主が……」
「当主はあそこまでしていない。ほとんど樹杏が一人でやってのけた」
 その言葉に黒龍が驚いている。
「そういう男だ。今敵にまわすのは厄介だからね、紅蓮にも刺激しないように言っておくか」
「白銀の旦那」
 黒龍が笑いながら言う。
「樹杏への伝書鳩なら喜んでするぞ?」
 その言葉に思わず苦笑した。

 翌日、菜月へ試用期間延長の話だけをしておく。
「捨てがたい逸材ではある。もっと君が自分の素性を明かしてくれればそこまで思わないのだけどね」
 だが、菜月は笑うだけだ。