「どうせ太雅も紳士なフリして家に連れ込んだんでしょ?」
……違うのに……。
太雅に八つ当たりしたって……
何も変わらない。
分かっているのに……
「ばーか。
そういう目的で連れ込むならもっと色気のある女の子にするってのー」
太雅は余裕の無い私を見透かすかのように落ち着いた声で宥めるように言う。
そしてまた私の髪を拭いてくれて。
私はちょっとだけ落ち着きを取り戻した。
「オレも那菜の気持ち、分かるかも」
「……嘘」
「完璧にはもちろん分かんないけど。
相手を信用出来ないっていうのはよく分かる」
雨の音も……
「今までも長続きしなかったし、ことごとく乗り換えられちゃうしで。
それなら軽いままの付き合いでいいじゃんって」
髪を拭いてくれるこの動作も……
「いつか別れるなら付き合いたく無い。
誰かを本気で好きになるって凄くリスクの高いことだって……」
太雅の声音も……
「自分と同じ気持ちを相手がずっと抱いてくれる訳じゃない。
だから本気で誰かを好きになることから今も逃げたまんま」
さっきまでと何も変わらないのに、全てがとても優しくなったように感じた。
太雅の本心が私の冷え始める心を繋ぎ止めてくれるようで……。
「……そっか。
太雅もあたしと同じ、だね……」
「だから那菜もすぐに変わろうと無理する必要ないって。
ゆっくり……変わっていったらいいし」
そう言って太雅はドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かしてくれる。
そんな太雅も……
嫌な自分から少しずつ変わっていっているのかな?
そんな質問はドライヤーの風音できっと届かない。
それでも今はいいや。
この静かで温かな空間に今だけ全てを忘れて寄り添っていたかった。
来てくれたのが太雅で良かったと……
そう心の片隅で思っていた自分自身に気付かないフリをして…────────



