「ったく、なんで傘持たずに出歩いてんだか」
「……たい……が……」
名前を呼んだ言葉と共に吐き出す息が真っ白な色に染まる。
待ち合わせ場所に来たのは長崎くんではなくて……
太雅だった。
「とにかく話は後でしてやるからついてこい」
太雅の羽織っていたコートを上から掛けられて。
この前ふと香った同じ匂いになぜか安心感が込み上げてきた。
太雅のコート濡れるのに……という反論すらも体力を奪われた私には出来ない。
2人で1つの大きな傘を差し、肩を抱いて一緒に歩いてくれる太雅に全てを預けてしまって。
「……ここ……」
「オレん家。
今は誰もいねーから遠慮無く。
というか那菜の家分かんねえし、オレん家の方があそこから近いしな」
躊躇っている私は無視のようで。
「ほら、シャワー浴びてこい」
「で、でも……」
「誰も那菜の裸なんか見ねーっつーの。
それとも見てもらいたい感じ?」
「ばかっ……!
そんなこと言ってないし!」
ドカドカと浴室に衣類を脱ぎ捨て入って。
これってまんまと太雅の策略に引っ掛かった?
なんて今更思えてきた……。
でも実際気は引けたけどシャワーを浴びることが出来てホッとしていた。
あの状態で放置してたら完全に熱出してたとこだ……。
「……ありがとね」
結局着る服もずぶ濡れで無いため太雅のパーカーを借りるも……。
全体的に大きい上、腕の部分長過ぎて手が出せない状況だ……。
文句を言える立場では無いけれど……。
「いえいえ。
しっかし風邪引く前で良かったわ。
ほらここ来なよ」
太雅の膝の間に呼ばれて、その先にはドライヤーがあった。
「い、いやいや……
それくらい自分でやる……!」
「だーめ。
ここオレの家だからやることはオレが決めるっ」
妙にドヤ顔をされて再度そこへ呼ばれて仕方無く太雅の膝の間へ。
そして肩に掛けていたタオルで髪を丁寧に拭いてくれる太雅のその手慣れた感じときたら……。



