「あ、ごめんごめん。考え事してた」
そう言って誤魔化すと、「やっぱりね」と咲良に笑われてしまった。
それから教室に戻ろうかと思ったけど、「トイレに行くから先行ってて」と咲良に嘘をついて、私は保健室へ向かうことにした。
堂本くんに、どうして今日の朝、早く学校に来たのかを聞きたいし。
トイレのある廊下を一直線に歩いていって、突き当たりが保健室だ。
誰もいないし、誰も私のことなんか見えないのに、私はなるべく足音をたてないようにしていた。
そう。例外がいるのだ。
堂本くんは、私が見えるし、私の声も聞こえる。透明なはずなのに、堂本くんからしたら普通の人間と同じなのだ。
ちなみにこの体は、自分の物と建物には触れられるけど、それ以外には触れられないらしい。
壁をすり抜けたり、ドアをすり抜けたりすることもできない。
……そういうところは、こういう時に不利になる。



