堂本くんは何も言わなかった。
私は顔を上げて、フェンスの奥に広がる風景に目を通す。町の上には、水で薄めたような淡い群青の空があった。
「毎朝お手入れ大変でしょ?私、堂本くんがやってるの、知ってるんだからね」
「……お前、そういうところだけはよく見てんのな?」
「……うん。ずっと見てたよ」
堂本くんはきっと気づいていない。
私は嘘をついた。堂本くんが毎朝、花のお手入れをしているなんて知らなかった。
あの日からずっと?
本当に……私のために?
もしかして、とは思っていたけれど。
また泣きそうになって、私は涙をこらえた。
ふっ、と堂本くんが先に手を緩める。



