優しい魔女は嘘をつく


「あの日、交通事故が起きたの。ちゃんと覚えてるよ?九月十二日の夕方、車にひかれたの、私は」





口が止まらない。止められない。



顔を上げて、堂本くんの目を見ることができなかった。見たくないと思った。




沈黙が怖い。堂本くんがどんな顔をしているのかなんて想像したら、もう後には引けなかった。




「ねぇ、ほら、バチが当たったんだよ。堂本くんが嘘つきだから。私、全部もう知ってるんだからね」




「……」




「…………私、死んじゃったんだよ」






声を上ずらせて言うと、涙が溢れた。



忘れたかった。どうせなら最後まで、忘れていたかった。





これ以上涙がこぼれないようにと必死に目に力を入れて、堂本くんを見上げた。