** 初美side
フェンスの奥に広がるのは、夕暮れの空だった。
くるりと向きをかえると、私は誰もいない屋上を見渡した。
少しの間だけ、神様が許してくれたのかもしれない。
錆びた鉄の上から重ねられたペンキ。薄汚れた緑の網にもたれると、私は腰を下ろした。
体は前よりも薄くなっていた。
左手の手の甲から指先を、そっと右手でなぞる。肌の温度とか、感触だとか。久しぶりにそれらを強く感じていた。
もう私の姿は、本当に“誰にも”見えなくなっていた。
朝、咲良や堂本くんが私を探しに来た時は驚いて、どうしようかと思った。
でも、ちゃんと目の前にいて、うろたえている私が、その時の二人には見えなかった。



