音のした方に振り向いた瞬間、目の前には車がいた。その時どうしてか、私の体は動かなかった。
まるでスローモーションのように、それはゆっくりとこちらに近づいてきていた。
雪道でもなければ、スリップしたわけでもなかった。その車は、正面から、私を見つめていた。
信号が視界の隅で赤に変わる。
なぜか、ブレーキの音が、息の音が、地面とタイヤの擦れる音が、聞こえなかった。
代わりにふっと頭の中に流れてきたのは、果夏の言葉だった。
『あたし、咲良のこと、好きだよ』
果夏は笑っていた。
もう、私の中では薄れてきていた、思い出の中で。
まだ私達が子供だった時に、果夏が確かにそう言っていたのを思い出した。



