近くまで来ると、鮮明にそれは聞こえてきた。
でも、次の瞬間、その人物は予想外の人の名前を口にしたのだ。
「──咲良」
私はとっさに、そちらに目を向けた。
そこにいたのは、咲良と……果夏だった。
張り詰めた空気に、二人の冷たい表情。私は怖くて、すぐに顔を引っ込めた。
なんで?……なんで二人が、いるの?
「おかしいよそういうの。壁に向かって一人で喋ったり。……ほんと、気持ち悪い」
果夏の吐き捨てたように言った言葉が、胸を圧迫した。咲良は黙って、果夏を見ていた。
……もしかして、果夏が言ってるのって。



