優しい魔女は嘘をつく


「踊りません」





私がキッパリと言い放つと、堂本くんは「は?」と怪訝そうな顔をした。



王子がそんな顔をしてどうするんだ。私はふい、とそっぽを向いて、言った。





「力抜いて、もっとゆっくり喋ってみて」





早口になっていたから、と付け足すと、堂本くんは目をそらして静かに頷いた。



彼の後ろに広がる淡い空の赤が、まるでほっぺたに張り付いたみたいに、顔を熱くしていく。




次に前を向いた彼の瞳には、私と、まだ微かに残っていた空の青が、映っていた。






「……美しい姫。私と、踊っていただけますか?」





落ち着いた口調が、心を揺らす。




そして、もう一度差し出された手は、震えることなく、私を静かに待っていた。