――もしかしてこのまま、終わってしまうの……?


そこまで思考が進んでしまうと、絵里花の胸が不安で曇っていく。


そうやってどんどん深みにはまっていく意識が、収蔵庫の扉が開けられるのと同時に、こじ開けられた。

我に返った絵里花が、首を伸ばして様子を窺うと、研究員の岩城が姿を現した。ボサボサ頭で無精ヒゲ、ビン底メガネをかけた見るからに典型的なマニアック。

普段は階下の研究室の自分のブースに閉じ籠って、岩城の姿を見ることはない。他の研究員は、絵里花に「今日も綺麗だね」くらいのことは言ってくれるのに、この岩城はそんなお世辞はおろか、ほとんど言葉を交わしたこともなかった。


――……あ、怪し過ぎ……。


自分の存在をとことん客観視し、細部にまで気を抜かない絵里花とは、まるで正反対のような人物。絵里花にとっては、その生態自体が理解不能の〝変人〟だった。


「君、〝望月さん〟だったね?これから、ここに大量の文書が運び込まれるから、準備しておいて」


初めて、言葉らしい言葉をかけられて、絵里花は息を呑みながら辛うじて「はい」とは答えたが、


――ちょっ……、どのくらいの文書が来るの?前もって言っといてよ!


心の中では、チクリと小言をこぼしていた。