岩城は、古文書の扱い方や表題のつけ方、破損部分の簡単な修繕の仕方、保管の仕方などなど、それまで絵里花が一人で適当にやっていたことを、根本的なところから一つひとつ教授してくれた。

絵里花はその仕事一つひとつに、真剣に打ち込んだ。ここには自分を必要としてくれる場所があり、自分はそれに応える義務がある。それは、自分の存在理由のように思うようになった。


それでも、この窓もなく日も射さない閉ざされた空間に、二人きりでいると息が詰まる。時計の針が恐ろしいくらいゆっくりと進み、絵里花は休憩時間を心待ちにした。


時計が三時を指した時に、待ちかねていたように絵里花は立ち上がった。


「三時の休憩に行ってきます」


そう絵里花が声をかけても、岩城は立ち上がる気配もなく、「うん」と生返事をするばかり。岩城はここに泊まり込むくらいだから、ここにいることは苦痛ではないのだろう。


――ホントに、変人……。


岩城をチラリと振り返りながら、絵里花は心の中でつぶやいた。

その時のことだった。


岩城がメガネを外し、眠気で涙がにじむ目をこする。そして、そのまま大きな伸び……。


絵里花は岩城の素顔を見て、息を呑んで固まってしまった。