絵里花の毎日は、それまでと変わりなかった。
女を磨くことにも余念がない。それは誰のためでもない自分のために。
自分でも好きになれる自分になっていれば、きっと未来も拓けてくれると信じていた。心も磨いて、もっと深く人を愛せる人間になりたいと思った。


だけど、収蔵庫の中にいるこの男のことは、絵里花にはなかなか理解しがたかった。

収蔵庫の中に泊まり込むこともあるらしく、風呂に入っていない彼からは、そこはかとなく酸化臭がしてくることもある。


「古文書を、粗末に扱うんじゃないっ!!」


そして、時折こんな怒号が飛ぶ。
その度に絵里花は身を縮め、一度くらい言い返してみたいと思ってみるけれども、彼の言動には、そのだらしがない身なりとは正反対に隙というものが無かった。


けれども、この岩城がいてくれるおかげで、絵里花は〝失恋〟の物思いに沈む暇さえなかった。そして次第にそれは、絵里花の中で遠い思い出となっていく。

そんな毎日を送るうち、この理解不能生物の生態にも慣れてくる。