――ああ、これで終わったんだ……。


崇のマンションを出て歩きながら、絵里花はぼんやりと思った。
見上げた夜空には、少し欠けた月がぼんやりとした光を放っていた。


大学生のときから五年以上も付き合った人とお別れしたのに、不思議と涙は出てこない。寂しい感覚はもちろんあるけれど、悲しいと思う感情も湧き出てこない。


絵里花は自分の気持ちが分からなくなる。


――私は本当に崇のことが好きだったの?崇のどんなところが好きだったの?


その答えはなかなか見つけ出せず、考え続けた末に絵里花は気がついた。

自分は崇その人に恋をしていたわけではなく、自分を「好きだ」と言って、受け止めてくれる存在に依存していただけだったのだと。


――本当に心の底から愛していなかったのだから、心変わりされても当然よ。


夜の電車の窓に映る自分に向かってそう思った時、ポロリと涙が零れて落ちた。


「……ごめんね、崇くん。今まで、ありがとう……」


もう記憶の中にいるしかなくなった崇に、そっと告げてみる。その言葉を告げた瞬間に、絵里花の心も崇から解放されて、新しい道を歩き始めていた。