僕は、冴島海人。
「さえじまかいと」と読む。
しがない進学校に通う、高一。「聖 光明館学園高等部」だ。
いつもつまんねー毎日を過ごしている。
ただ受験の為にひたすら勉強して、家に帰ってまた勉強して、時には塾に通う毎日___
そんな毎日に未来があるのかと、時には自分の日常にある種ゲシュタルト崩壊を起こしながら___
今日もまた、駅の改札に定期を押し付け、通る。
電車に乗り込んでも、時間は大切だ。
いつもテスト勉強している感じ。
なんせいつ抜き打ちテスト入れられるか気が気じゃないからだ。
本に赤シートを被せたり、単語の書いたリングの暗記メモを読み返したり___
降りる駅まで3駅15分、気が抜けない。
そうこうしているうちに、降りる駅に着いた。

バス亭から歩いて5分の所に、僕の学校はある。
まるでどこかの中世のお城みたいな風貌の僕の学園は、年齢が大きい程先輩が下階にいる。
しかもとてつもなく上下関係が厳しいので、先輩の年齢の人には必ず「ごきげんよう」と言わないといけないのが苦痛だ。
朝は毎日、礼拝堂で拝む儀式をする。
生きている毎日に感謝しながら。
少しキリスト教みたいな学校である。
ひと通り終わったら休みなく一限目。
今日は英語だ。
案の定、抜き打ちテストが来た。
僕は予想してた所を思い出し、何とどんぴしゃで、結構埋められた。
休み時間になると、近くに座っている親友が声掛けてきた。
「いやー、まさか抜き打ちテストが来るとはねぇ……。全く予想してなかったぜ!」
「ほとんどそんな感じなんだから学習しろよ!」
……この頭の後ろに手を持って言ってヘラヘラしている男は、「二階堂悠之介」。
楽天的で、その場のノリで行動する危ないヤツ。
前なんか日没直前になんの根拠か「だいじょーぶ!」とか言ってゲーセンに駆り出され、すぐにつまみ出された。
能天気すぎるから僕が気をつけてやってるが、本人は気づいてないんだろうな……
こいつのすごい才能は、絵が上手い。
コンクールで10回出して8回入選している。
将来有望と言われているが……
「なぁ、今日の帰り、ゲーセン行こうぜ!」
「嫌だよ、またつまみ出されるんだろうし」
「だーいじょうぶだって!もし無理だったらラーメン奢ってやる!」
「よし!味噌流星群の野菜味噌大盛りな!」
「いいぜ!」
……こいつ、入賞しまくってるから金あるんだよな……

そしてあん案の定、つまみ出された。
勉強が長引いたから。
そして「次日没前に来たら出禁!」と釘を刺されてしまった。
「お前のせいだぞ!」
と僕は咎める。
「だって」
と友人は不貞腐れてみるけど、苦笑いも浮かべた。
そして野菜味噌ラーメンを食べに行った。

家に帰ると、無駄に豪邸で広い家に僕一人。
親はどっちも夜遅くまで働いていて、誰もいなくてもの悲しいけど、もう慣れた。
相変わらず「適当に食べて」の書き置きと、2000円。
今日はラーメン食べたから、そのまま風呂に入って自室に戻った。
このお金は、お小遣いにしている。
将来に役立つかなと思って。
親は余るほど金持ってるみたいだし、いいだろうと。
自由に使うこともあるけど、余ったら貯金している。
無駄に広いベッドに、頭の後ろに手を組んで横になる。
真っ白な天井を見つめながら、色々考える。
そのうち考えることもやめ、そばにあった携帯ゲーム機を鷲掴みにする。
昨日発売されたばっかりの、シュブナイルRPG。
無駄にBGMがボイス付きでカッコいいの。
マスコットに諭されながら、昼と夜の行動を決めて、クエストをこなして……。
いよいよボスって時に充電が切れそうになって繋げる。
(ちっ……、テンション下がるって)
ちまちまコマンドを入力しながら、
(僕の人生も、与えられたコマンドにそって生きてんのかな)
とか色々考えたけど、ゲームでそこまで思えるのは流石に破綻しすぎてるかなと思い、頭を振ってゲームに没頭したら眠くなったので今日は寝た。

次の日。
いつものように電車に乗ろうとして、異変に気づいた。
何と、定期がないのだ。
確かに持ってきたはずなのに、何故か改札通る直前になると無くなっていた。
(あの中には当分乗れるだけのお金が……!!)
しかし今の電車に乗らないと遅刻してしまう。
「ちいっ!!」
僕ははやる気持ちを抑えながら、とりあえず現金で電車に乗り、着いた先で携帯でさっきの駅に電話した。
「あの、定期がなくなって……。もし見付けたら教えてくださいませんか?」
「かしこまりました」
「僕これから学校なんで失礼します」
教室に着くなり二階堂が
「よお」
と挨拶してくれたけど、
「お、おう」
としか返せなかった。
「なんかおかしくね?」
と言われても、
「ちょっとな」
と言うのが精一杯だった。

放課後になっても、電話は来なかった。
僕は落胆して、諦めようとすら思った。
泣きそうな気持ちを抑えながらバスに乗り、駅に着くと着信が入り駅だったので僕は震える手と焦る鼓動でその電話に出た。
「見つかりましたよ!女性が拾ってくれました!直接渡したいそうなんですぐ取りに来て頂けますか?」
僕の顔は、太陽のように明るくなった。
今すぐスキップしたいような気持ちを抑えながら電車に乗った。
傍から見たら単細胞のアメーバである。