「安心して仕事もできないよねー」

後部座席で私の横に座った丹羽さんは、ふくらみが目立つお腹をさすりながら不安そうに窓の外を見た。

「警察がきちんと捜査してくれるから大丈夫ですよ」

大掛かりな捜査体制で毎日忙しいシバケンとはろくに電話もできないでいた。そんなシバケンにケガをしないようにと願うのが精一杯だ。いくら訓練しているといっても、刃物を持った犯人を相手にしたら無傷でいるのは難しいかもしれないのだから。










不動産会社でアパートの間取りと敷金礼金の一覧が書かれたコピー用紙を数枚持って、優菜との待ち合わせの洋食屋に入った。席に案内されると先に店に入っていた優菜は既にワインを飲んでいた。

「みーやぁー……」

私を見ると涙目になり甘えた声を出した。

「なに、どうしたの?」

いつもと違う様子に驚きながら優菜と同じワインを注文した。

「異動なんて嫌だよぉ……」

「ああ、それね」

先日辞令が出て優菜は副店長の任を解かれ、他の店舗への異動命令が出た。

「辞めたいって言ってたじゃない」

「そうなんだけど、店が変わるのは嫌なのぉ。通勤面倒だしぃ」

今にも涙がこぼれそうな優菜は異動が心底嫌そうだ。

「熊田さんから離れられてよかったじゃん」

「熊田はキモイけどそれを差し引いても異動はいやぁ」

居酒屋でもないのに優菜は酔っている。私が来るまでにどれだけ飲んだのだろう。

「もう寿退社したい」

「相手がいないでしょ」

「……公務員とか」

「はい?」

「公務員と結婚する!」

いきなりの宣言に面食らった。

「高木さんのこと?」

優菜がお付き合いしそうな可能性がある男の人といえば高木さんしか思いつかない。高木さんは分かりやすいほど優菜に気がある。

「……付き合ってほしいって言われてるの」