「署では簡単なシャワーしか浴びれてなくて……」
そう言って恥ずかしそうに首の後ろに手を回す。シバケンの勤務は朝出勤すると翌日まで家に帰れない。業務内容によっては二日以上まともに家に帰れないこともある。
「一旦帰って風呂入って、違うスーツに着替えなきゃ」
「いいんです、そこまでしなくても」
思わず両手を振って拒否してしまった。わざわざスーツまで着替えるなんて気を遣わなくていいのだ。私としては父に会ってほしくないのだから。
「実弥は先に家に帰ってて。帰りたくないかもしれないけど、俺がすぐに行くから」
はっきりと言い切ったその表情は凛々しくて頼り甲斐がある。けれど家に帰ってもまだ坂崎さんがいるかもしれない。シバケンと坂崎さんが父の前で対面したら、どんな事態になるかなんて想像したくもない。
「帰れません……」
小さく呟いた。坂崎さんが悪い訳じゃない。でも会いたくないのだ。
シバケンは少し考えてから「じゃあ今からうちに来る?」と遠慮がちに提案してきた。その言葉に目を真ん丸に見開いた私に彼は「風呂入ったら一緒に行こう」と言うのだ。
「…………」
深い意味があって家に来てと言ったわけではないはず。けれどシバケンの家に行くなんて緊張で口数が少なくなりそうだ。
「それともどこかで時間を潰してもらえるなら……」
「いえ、行きます!」
だんだん不安そうな顔になるシバケンを見ていられなくて行くと言ってしまった。
「うん……じゃあ行こうか」
シバケンはほっと安心したような表情を見せ、伝票を持つと立ち上がった。
ファミレスを出て、しばらく無言でシバケンの半歩後ろを歩いていた。この先の展開を想像したら緊張と気まずさで何も言葉が出ない。
「実弥」



