「たまたま窓から実弥が見えたから」
もう見慣れた優しい笑顔を向け、テーブルを挟んで私の向かいに座った。
こうして同じテーブルに座ることが当たり前の関係になったというのに、未だに慣れなくてドキドキする。
「はぁ……疲れたー」
仕事終わりのシバケンはネクタイを緩め、髪が少し乱れていた。
「お疲れ様です」
「昨日から通報がありすぎ。事故も起こるし夫婦喧嘩も止めるしで、マジで疲れたわー」
シバケンは眉間に微かにしわが寄っている。それほど疲れているのだろうけど、今は充実感に満たされた『警察官のシバケン』を見たかったのになと思ってしまう。
私の気持ちを知らない彼は店員にハンバーグセットを注文すると私の顔をじっと見た。
「実弥も疲れてるね。非番の俺よりも疲れた顔してるよ」
慌ててカバンの中から鏡を出してみると、言われたとおり目の下がくすんでいる。坂崎さんに会うだけだと簡単なメイクしかしていないことを後悔した。シバケンに会うのだから、待っている間にもっと気合を入れておけばよかったのだ。
「何かあった?」
テーブルに頬杖をついても変わらず穏やかな顔のシバケンについ甘えてしまいたくなる。
「あの……家に帰れなくて……」
「お父さんとケンカした?」
家に帰りたくない理由をどう伝えるか迷う私に、シバケンは運ばれてきたハンバーグセットを食べながら話し始めるのをゆっくり待っていてくれる。
父との仲があまり良くないということは既に伝えていた。シバケンに憧れて警察官になりたかったことも告白したし、父のコネで就職したことも話した。
「父に男性を紹介されました」
そう言うとぴくりと箸を持つシバケンの手が止まった。
「父の会社に勤める方で、その人と付き合えと言われました」



