PMに恋したら


エリートの横山さんは総務課の雑用係である私のことなんて知らないと思うけれど、社内の人とすれ違って一人気まずく感じる。

会社の近くに住めたなら楽だから古明橋の不動産屋に来たけれど、休日出勤の社員も通る可能性があるこの場所にいるのは落ち着かない。かといって家にも帰れないし、せっかくの休日を無駄にしないで今日にも部屋を決められたらと思っていた。

LINEの通知音がしてスマートフォンをタップした。シバケンからお昼過ぎには仕事が終わるとの連絡だった。思ったよりも早く会えそうで嬉しくなる。

お昼までファミレスで時間を潰し、パフェと何杯目かのドリンクバーでお腹がいっぱいになって外を見ていたとき、シバケンから電話がかかってきた。

「今から家に帰るから、1時間後くらいにそっちに行くよ」

「実は今古明橋駅の近くにいるんです」

「え、そうなの?」

「ちょっと色々あって……」

家のこと、坂崎さんのことを言おうとして躊躇った。シバケンにこんなことを言っても迷惑じゃないだろうかと。父に紹介され坂崎さんと会ったことはシバケンには言っていないのだ。

「色々ね……それは俺には言えないこと?」

「いいえ、そうじゃないんですけど……」

コンコン

横の窓ガラスが叩かれる音がして見ると、耳にスマートフォンを当てたスーツ姿のシバケンがガラスの向こうに立っていた。

「えっ、シバケン?」

「実弥みーっけ」

いたずらっぽく目を細めて笑うシバケンの口の動きと同時にスマートフォンから声が聞こえる。

「そっち行くよ」

そう言うとシバケンは耳からスマートフォンを離してファミレスの入り口から店内に入ってきた。