「実弥! 起きて!」
「んー……なに?」
母に揺り起こされて目が覚めた。ベッドの横に置いたスマートフォンで時刻を確認すると、朝の8時になろうとしている。
「今日仕事休みだよ?」
母が仕事の日だと勘違いして起こしてくれたのなら逆に迷惑だった。休みの日は自然と目が覚めるまでゆっくり寝ていたい。
「違うの、坂崎さんが来てる」
「え!?」
坂崎さんの名前に一気に目が覚めた。
「どうして坂崎さんが?」
「お父さんが呼んだらしいの。お母さんも今突然坂崎さんが来て知ったのよ」
休日なのに朝早くに呼び出される坂崎さんを不憫に思う。父は坂崎さんにパワハラをしているのではと心配になるほどだ。
「もう……とりあえず私部屋にこもってるから、坂崎さんが帰ったら教えてよ」
「実弥を待ってるの。だから支度して下りてきて」
「はい?」
ますます混乱する。まさか父はまた坂崎さんと私を会わせようとしているのだろうか。
「無理、会いたくない。寝起きだし……」
私を待っているとはどういうことだ。下りるにしても今から着替えてメイクして髪を整えて。そうすると坂崎さんをかなり待たせてしまう。
「ごめんね突然で。少しだけでも顔出して。お母さんが上手く言っとくから準備してね」
母も急なことで驚いているのだろう。父は母にすら何も言わずに勝手に物事を決める癖があった。
母が部屋から出て行くとゆっくりとベットから下りた。
今日は不動産屋に行って部屋を探す予定だったのだ。もしシバケンの仕事が早く終われば会えるかもなんて期待していた。
父が私と坂崎さんを会わせて何がしたいのかはわからないけれど、こうなったらなるべく早くお引き取りいただこう。
坂崎さん相手に気合を入れる必要はない。自分を良く見せなくたっていいのだから、髪は下ろしたまま梳かすだけ。メイクもファンデーションとマスカラだけで十分。服はこれでいいやと量販店で買ったシンプルなワンピースをクローゼットから出した。



