反対に私の挨拶はどうしても素っ気無くなってしまった。坂崎さんの第一印象は悪くない。けれどこの人と関係を深める気など初めからなかった。
食事が運ばれてきてしばらくたっても、私は挨拶して以降会話に加わることはなかった。ほとんど父と坂崎さんの仕事の会話で、私も母も黙って料理を口に入れていた。
「坂崎君は今いくつになった?」
「今年で34になります」
「そうか。実弥はいくつになるんだった?」
「24」
父の質問に数字しか言葉にしないのはさすがに感じが悪いかもしれない。けれど無理に会話に混ぜようとする父の態度にはうんざりするし、娘の年くらい覚えておいてよと呆れてしまう。
「ちょうど10歳離れているな。でもまあ気にならない差だな」
年齢差を気にしない父は私の態度だって気にならないほど酔い始めたのか、豪快に笑うとワインを飲み干した。坂崎さんと交際することがもう決まっているような父の言い方が気に入らない。
坂崎さんは私にはもったいないくらい素敵な人だ。けれどお付き合いしたいとは思わない。坂崎さんはどう思っているのだろうと顔を見ると、私を見ている彼と目が合った。そうして私に向かって微笑んだのだ。整った顔で笑いかけられて思わず目を逸らしてしまった。髪がボサボサでメイクも直していない、だらしない自分が恥ずかしくなるくらい坂崎さんはかっこいい。じっと見られて顔を上げることができない。
父との話の合間にも坂崎さんから視線を感じた。彼はきっと心の中でここに来たことを後悔しているかもしれない。父に押し切られて強引に食事をさせられているだろうに、相手が私ではさぞがっかりだろう。上司の娘だから仕方なく会っているだけに違いない。
「坂崎君は優秀な男でね、社内でも期待されているんだ」
「いえ、黒井専務のお力があってこそです」



