PMに恋したら


「行ってただ食事をするだけでいいから。実弥が気に入らなければそれっきり会わなくてもいいのよ」

母はそう言うけれど、父はこうと決めたら絶対に譲らない。私に紹介したい男というのが、つまりは父の決めた私の交際相手になるということだ。

「絶対に嫌! 大体私に前もって言わないのは何で? 拒否するのが分かってるからでしょ?」

子供のように抵抗する私に「実弥」と母の奥から父が名を呼んだ。

「今日だけは父さんの顔を立てると思って付き合ってくれないか。向こうだってお前が気に入らなければ断ってくるんだから」

その言葉に私は足を止めた。
それもそうだ。相手に嫌われてしまえば父だって諦めるに違いない。その人に私は最低な女だと思わせればいいのだ。

「わかった。行く」

低い声でそう言うと車が止まり私は後部座席に乗った。





予約したというレストランに着くまで窓の外を見ながらどうやって相手に嫌われようかと必死で考えていた。今着ているデート用の服ではなくてジャージに着替えておけばよかった。髪は乱れてきているからこのままでいいし、メイクも泣いたあと簡単にしか直せていないから酷い顔のはず。相手がどんな男なのか知らないけれど良く見せる必要はない。

お店に着いて席に案内されるとそこには既に一人の男性が待っていた。

「坂崎君、遅くなってすまないね」

「いいえ」

「家内と娘の実弥だ。実弥、こちらは父さんの会社の坂崎君だ」

父に紹介され坂崎と呼ばれた男性を見た。背は180センチ以上あるかもしれないほど高く、モデルもできそうなほど整った顔をしている。私よりは年上だということはわかるけれど、そんなに離れているようには感じない。

「坂崎亮です。お父様にはいつもお世話になっております」

坂崎さんは母と私に丁寧に挨拶をした。

「実弥です……」