「大事にする」

この言葉が嬉しくて、返事をする代わりにシバケンの胸で頷く。

「やっぱりシバケンはかっこいい」

「そう?」

「ずっとずっと変わらない……仕事してるシバケンも、プライベートのシバケンも」

愛情込めて抱きしめられたら、離れたくなくなってしまう。

「こんなお巡りさんかっこよすぎ」

フッと耳元でシバケンが笑った。照れているのは顔を見なくてもわかる。

「これからはプライベートも守るよ」

「はい……」

「もう強引なことしないから」

その言葉がおかしくて嬉しくて、シバケンの肩に顔をうずめた。





映画館から出ると既に夕方で、飲食店は賑わってきているようだ。食事をしてから帰ろうと駅に向かう歩道を歩いていたとき、シバケンのスマートフォンが鳴った。

「ちょっとごめんね」

シバケンは私に一言声をかけ電話に応答した。

「もしもし……え、はい……マジっすかー……はい……」

どんどん声が低くなり落ち込んでいくシバケンにこっちまで不安になった。

「わかりました、行きます。でも車じゃないんでちょっと時間かかるかも……はい……失礼します……」

電話を切るとシバケンは溜め息をついた。

「ごめん、今から仕事になっちゃった」

「え!?」

突然の事態に思わず大きな声が出た。

「でも今日はお休みなんじゃ……?」

「緊急の仕事なんだ」

申し訳なさそうにするシバケンに責めるような言葉を発した自分に呆れる。

「この間古明橋に出た通り魔なんだけど」

通り魔と聞いて思わず手を握り締めた。もしかしたら自分が襲われていたかもしれない恐怖が一瞬で蘇った。

「まさか、また誰かが?」

「いや、その犯人に特徴が似た人が目撃されたんだって。これから俺は中央区内をパトロールしなきゃならない」

「そう……なんですね……」

シバケンは警察官。休みの日だろうと非常事態には出勤しなければいけない仕事なのだ。