「ああ、俺はこの子が好きだなって」

柔らかな眼差しを向けて、「全部手に入れたくなったんだ」と穏やかな声でそう言った。思わず叫んでしまいそうなほどの幸福感が心を満たした。

「私も、シバケンが大好きです」

自然と言葉が漏れた。

「彼氏とまだ付き合っていたらここには来ません。シバケンと再会してからすぐに別れました。不誠実な付き合いをしたくない。だってシバケンが大好きだから」

仕事をしている彼、笑う彼、頭を撫でて手を包んでくれる彼の全てが好きだ。好きだと思ったところを全部伝えたい。けれどただ『大好き』という言葉以外出てこない。そんな私にシバケンは笑顔を見せる。

「実弥ちゃん、俺の彼女になって」

「はい」

もちろん答えはイエスだ。長い間ずっと夢見てきたことなのだから。

「もう一度キスをやり直していい?」

微笑んだまま聞く彼に私は「はい」と伝えて目を閉じた。肩が抱かれ、シバケンと体が密着する。私の唇に触れた彼の唇は、先ほどの貪るようなキスと違って啄ばむような優しいキスだった。

「また泣いてるの?」

「だって嬉しくて……」

潤みはじめた目を隠すように下を向いた。そんな私をシバケンは強く抱きしめた。

「飲み会のあと実弥ちゃんを泣かせちゃって本当に焦った」

耳元で聞こえる声からは後悔が滲み出ている。

「気になってる子にやる行動じゃなかったね」

「本当にびっくりしましたよ」

「ごめん……飲んだ帰りに勢いで抱きしめたのは、望んでたから。実弥ちゃんと近づきたかった」

抱きしめる腕が強くなった。

「あの時怒って泣いた君の顔がずっと頭から離れなかった。本当に後悔してる」

「もういいんですよ」

今ではそれもシバケンと築いていく思い出の一つになるのだから。