「シバケンが好きだから、別れました……」

言ってしまった。この暗さを利用して、涙でぐちゃぐちゃな顔を見られないように。シバケンが身を乗り出して私へぐっと近づいた。

「好きなの? 俺のこと」

「……はい。高校生だった時からずっと好きでした」

そう告げた瞬間シバケンの顔が更に近づいた。思わず目を瞑ると、唇に柔らかいものが触れる。それがシバケンの唇だとすぐにわかった。触れた唇は感情が湧く前に一瞬で離れ、目を開けるとまたすぐに触れてしまえる距離にシバケンの顔がある。私から一切視線を逸らさない瞳に体が吸い込まれてしまいそうな感覚になった。
薄暗い中でもスクリーンのわずかな光でシバケンが目を閉じたのがわかったから、私も自然と目を閉じた。再び唇が重なると、今度は離れることはなく角度を変えて貪るようなキスをされた。意外なキスに肩に力が入った。膝の上で握り締めた私の手をシバケンの手が包んだ。
体から唇と手以外のパーツがなくなったようだ。シバケンに触れている部分だけの感覚しかない。痺れを覚えた唇が離れてしまい、物足りなさからゆっくり目を開けるとシバケンの顔がはっきり見える。いつの間にか場内が明るくなっていた。
出口に向かって歩く人々がキスをする私たちに呆れた顔を向けている。途端に恥ずかしさがこみ上げた私は下を向いた。
こんなに人がいっぱいいるところでシバケンに告白してキスをするなんて……。
自分の大胆さに驚いた。同時にシバケンの予想外の行動にも驚く。

「実弥ちゃん来て」

私の手を包んだままのシバケンは手に少し力を込めて私に立つように促した。周りの注目を浴びてシバケンに手を握られたまま場内を出ると、彼は館内出口には向かわず通路の奥に進んでいった。

「シバケン?」