え? と聞き返そうとすると突然頭に温かい何かが載った。びくりと体が強張ったけれど、その何かは私の頭を優しく撫でた。それがシバケンの手だと気づくのには時間がかかった。彼の顔が見たくて横を向いたのと同時に、頭の上の手はシバケンの膝の上に戻ってしまった。スクリーンの薄い明かりで照らされたシバケンは無表情だ。私を見るわけでもなく、顔のパーツを一切動かすことはなかった。私も視線をスクリーンに戻したけれど映画の内容はもう頭に入らなかった。シバケンの手が載せられた頭は違和感を持ったまま、全身に麻痺が広がったように体は動かない。けれど涙だけは止まらなかった。

映画の感動を引きずって、シバケンに触れられたことが嬉しくて、けれど錯覚だったのではないかと混乱して、頭の中はぐちゃぐちゃだった。きっと涙でメイクも崩れている。

後ろの席の人が立ち上がる気配で我に返った。まだ劇場内は真っ暗ではあったけれど、気がつけばスクリーンはエンドロールが流れ、他にも席を立つ人が何人かいた。いつの間にか映画が終わっていた。ラストがどんな終わりだったのか見ていなかったので全然わからない。これではシバケンと映画の話ができなくなってしまう。

「実弥ちゃん」

再び耳元でシバケンの声がする。

「今日俺とこうして二人で会ってくれてるけど、最初に会ったときに言ってた彼氏とはまだ付き合ってるんだよね?」

予想外の質問に驚いた。シバケンと再会したのは太一に部屋から締め出された時だ。とっくに別れて自分では忘れていたけれど、シバケンは私がまだ太一と付き合っていると思っているのかもしれない。薄暗い中でもシバケンが真剣な表情で私を見ているのがわかった。

「……付き合ってないです」

太一と別れたのが遠い昔のことのようだ。今の私はもうシバケンしか目に入らない。シバケンしか好きにならない。