女性キャスターが神妙な顔で事件を伝えた。画面には数名の警察官と、歩道を塞ぐように貼られた黄色いテープが映され事件の重大さを物語っているようだ。
私は額に汗が浮かんだ。画面に映る事件現場は一時間前にお茶を買いに行くために通った歩道だった。コンビニエンスストアと定食屋の前の歩道だ。もう少し帰社するのが遅かったら、髪を切られていたのは私だったかもしれない。今頃怪我の治療のために病院にいたかもしれない。そう思うと箸を持つ手が小刻みに震えた。

本当に、もう少し遅かったら……。

テレビ画面はニュース映像から新しくオープンするスイーツカフェの特集を放送する賑やかな映像に切り替わっていた。その賑やかさが相反して私の心を暗く落ち込ませた。



◇◇◇◇◇



シバケンと会うのは土曜日の午後になった。
鏡を見て入念にメイクのチェックをして、着ていく服にも気を遣った。
私は勝手にデートだと思っていた。シバケンからどこかに行こうと言ってくれたのだから、彼にだって少なからず私に気があるんだって解釈していた。
これはチャンスなんだ。7年間の片想いを実らせる絶好のチャンス。

初デートは映画を観に行くことにした。提案したのは私だ。観たい映画があるわけではなかったけれど、もし緊張して話題がなくても映画の内容で話が盛り上がるのではと期待したからだ。シバケンはそれなら観たいSF映画があるのだそうだ。

待ち合わせはシバケンの家の近くの繁華街にした。古明橋にも映画館はあって大きくて新しいけれど、お互いの職場の近くで会うことは嫌だった。いつも行く場所よりも違う環境で会いたい。私だけではなくシバケンもそう望んだ。

待ち合わせ場所に早めに着いてもシバケンは既にそこに立っていた。制服でもスーツでもない私服のシバケンを見るのは初めてで、これでは本当にデートではないかと早くも緊張してしまった。

「肩はもう大丈夫ですか?」