引き継ぎのときに北川さんからは使いっ走りの仕事は断っていいと言われていたし、部長からもそのように言われている。
総務課に異動してから様々な部署と話をする機会が増えて、人の顔と名前と部署を覚えるだけでも大変だ。特に秘書室とはできるだけ関わりを持ちたくないと思っていたのに、断る前に通話を終えられては私が行かなければ更に怒られそうだ。
部長に話をすると仕方ないので今回は買いに行ってくれと頼まれてしまった。

スマートフォンと財布を持ってカーディガンを羽織り会社を出た。
やっぱり『雑用係』は私が継続のようだ。みんな私を便利屋か何かのように仕事を押し付けるのだ。総務課の仕事は他にもやることがたくさんあるのに。けれど今の私は細かい事は気にしないようになった。楽しみが増えたので仕事のストレスを発散することができるようになった。

LINEの通知を知らせる音が鳴り、アプリを開くとシバケンからのメッセージがきている。それを見て飛び跳ねたくなるほど高揚する。
彼は今日仕事が休みのようだ。ということはこうして会社の外にいても今日はシバケンに会うことはないのだと少し残念な気持ちになる。でも今後の休みの日を教えてくれた。記載された日付の中で私の休みと重なる日に二人で会うことになっている。

ここ最近の私はシバケンからの連絡があるだけで一喜一憂している。完全に彼に心奪われてしまっていた。こうして行きたくもない買い物にだって心底うんざりするわけではない。シバケンのお陰で私の毎日は変わり始めていた。私がお茶を買いに行けば役員がいい仕事ができるならそれはそれで良いかとすら思うのだ。